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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)158号 決定 1954年12月16日

抗告人 株式会社淀川製鋼所

主文

本件抗告は、これを棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、原決定の過料は、以下のような諸般の事情に照すとき酷に失する。

即ち、大阪府地方労働委員会が、本件緊急命令の申立をしたのは、昭和二十八年十二月四日であるが、抗告会社では、当時あたかも、越年資金をめぐる争議中であつて、本件緊急命令が同月二十六日抗告人に送達せられるや、労働組合はこれを大きく掲示し、抗告人にとつては、緊急命令が組合に気勢をそえるため、政策的に濫用せられたかの如き感を抱かしめる状況にあつた。しかのみならず、抗告人は、右労働委員会の救済命令の違法なことを確信し、これが取消の行政訴訟において、勝訴の判決を受けるのも間近いことと思われたし、一方被救済者には当初相当の支払をなし、生活上の不安を来すこともなかつたところから、右判決の結果をまつことにのみ気をとられたため、爾後の支払を遅延するに至つたのであるが、昭和二十九年七月十一日、本件につき、原裁判所より審尋の通知に接してその非を悟り、急遽原決定認定の支払をした外、同年八、九両月分の賃金相当額についても、その支払を続けて来たような次第で、全然本件緊急命令を無視したわけでなく、前記のような事情に、抗告人の不慣れも加つて、若干の支払遅延があつたに過ぎないのであつて、宥恕すべき事情多分に存するものというべきである。

よつて原決定を取消し、相当な裁判を求めるというにある。

按ずるに、本件の如く既に緊急命令が発せられた以上は、とくに取消がない限りその必要性の有無又はこれに先行する救済命令の適否に関係なく効力を有し、抗告人においてこれに違反すれば制裁を免れないことは当然であつて、その情状につき、本件記録にあらわれた諸般の事情を考慮するとき、かりに抗告人主張のような状況にあつたとしても、その不履行日数が相当長期にわたるのであるから、抗告人に対し金二十万円の過料を科したことを以て、重きに過ぎるものとは考えられず、本件抗告は理由がない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)

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